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第1話・勇者の嫁を強いられまして 3

Auteur: 阿良春季
last update Date de publication: 2025-06-01 06:42:02

 荷造りも一通り終わった頃にはすっかり深夜になっていた。

 ミオは宝石箱の中から長方形の板を取り出す。

 それは我々の世界で言うところのスマートフォンである。しかしミオはおろかこの世界の誰もその呼び名を知らないだろう。

(勇者様、私のこと覚えてらっしゃるのかな……)

 懐かしむ眼差しでミオはスマートフォンを見つめる。

 実はミオは以前勇者に一度出会っていた。

 二年前、いつものように隠れ家の森を歩いていると、ミオは道に倒れていた男を見つけた。

 勇者が倒れていたのだ。

 しかし当時のミオは彼が召喚されたばかりの勇者だとは知らずに、隠れ家へ連れて行った。

 倒れていた原因は症状を見る限り毒だった。なので毒消しの薬を飲ませて一晩看病したのである。

 だがミオが目覚めたら勇者の姿はなかった。しかし代わりにこの魔法の板が落ちていたのである。

 最初は指で触ると動き、まるで生きているような精巧な人物の絵や、その場で吟遊詩人が奏でているかのような音楽が聞こえたのである。それどころか動いて笑う絵まであった。

 興奮して家族に伝えようとも思ったが、この板は恐らく勇者の物だ。禁呪か何かの類かもしれないし、父親に取り上げられるかもしれないと思えば吹聴する訳にはいかない。

 だからスマホのことはミオ一人の胸の中に閉まっておき、しばらく預かっていた。しかしその内どこを触っても板は真っ黒いまま反応しなくなってしまった。壊してしまったのである。

 実際は壊れたのではなく単なるバッテリー切れだろうが、それを知ったところで電気もないこの世界では意味はない。

(とにかくこれを返さないと……)

 スマートフォンをミオが持っている中で一番綺麗で見栄えがするハンカチで包むとトランクの一番安全そうな場所に入れる。

 後日助けた青年が勇者と知った時はミオはとても誇らしかった。変わり者で能無しの自分でも勇者を助けられたのだと嬉しくなってしまったのである。

 あの時はロクに会話も出来なかったが、触れた漆黒の髪のサラサラとした感触は覚えている。この世界では珍しい夜を思わせるような黒髪の艶やかさも覚えているし、荒々しい息遣いも発熱で熱く火照った勇者の体も。

「……って何考えてるの私!」

 あらぬところまで思い出してしまい一人で声を上げて赤面してしまう。しかし嫁になるのだからそう言うこともするのだろう。

(でもこの板はともかく私は突っ返されたりしないかな……)

 何せ国王命令では美姫ということでエルフェを求めていたのである。

 鏡を覗き、ミオは瓶底眼鏡を外してみた。卓上のランプ灯りとぼやけた視界では見辛くて鏡にぐいと顔を近付ける。

 赤みがかったブラウン色のボサボサの髪。夕暮れ色の瞳。鏡の中には今にも泣き出しそうに歪めた自分の顔が映っている。

 地味で陰気でみっともない顔だ。

(痛いなあ……)

 『可愛いエルフェにそのような真似はさせられん、と言う訳で代わりに姉のお前が国王命令として勇者の嫁になるのだ』

『いいじゃないお姉様、お姉様が得意な魔法であの謎の草を荒野に生やして差し上げたらいかがです? 荒野も緑の土地になりますわ』

『まあエルフェったら、ミオは朝早くにいなくなるのに……けれどお祝いはしなくちゃね。ミオの結婚ですもの。パーティードレスは何を着ようかしら』

 先の家族の言葉を思い出してしまうと胸がぎゅうっと痛く締め付けられる。鏡の中の自分を見たままミオは静かに涙を零してしまう。

 貴族の娘として生まれたのだから権力者の元へ嫁に行くのは当然だ。しかしこんな投げやりでどうでもいいと言われる結婚があるのだろうか。

 北の果ての地に、それも怒れる勇者の元に嫁ぐ。いや無理矢理押し付けられるのである。それは生け贄と同じではないか。それも勇者が望んだ訳ではないのだ。無理矢理押し付けられただけである。

 勇者には会いたいけれど、会えるなら過程はどうでもいいと言うわけではない。

 勇者に好意は持っている、武勇伝も大好きだ。

 しかしだからと言ってこんな再会は望んでいない。

 鼻の奥がツンと痛くなりいよいよ視界が涙でぼやけてきた。

「……頑張ろうミオ。きっと勇者様は分かってくださるわ」

 何をどう分かってくれるのかはミオにも分からない。

 もし彼に突き返されてしまったら、そのままふらりと一人気の向くままに冒険をしてみればいいのだ。そしてそれで野垂れ死ぬならそれも本望ではないか。

 どうせミオが死んで悲しむ人など誰もいないのだから。

「頑張れミオ、頑張れ」

 鏡の中の泣いている自分を鼓舞しながらミオは涙が収まるのをじっと待つ。今までもずっとこうして一人で生きてきた。

 だからこうしてこれからも生きるのだ。

 そんなミオを見守るように空に浮かぶ双子の月は優しく見守っていてくれていた。

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